クリーンルーム周辺環境における空気清浄機の役割と導入ポイント

クリーンルームの清浄度を維持するうえで、HEPAフィルターを備えた空調設備や差圧管理、ゾーニングなどの仕組みは欠かせません。
一方で、前室や準クリーンエリア、出荷・梱包エリア、来客エリア、事務スペースといった「クリーンルームの周辺環境」に目を向けると、
そこまで厳密な空調システムが導入されていないケースも少なくありません。

これらのエリアは、作業者の動線や物品の搬入経路となることが多く、浮遊微粒子や粉塵が発生・滞留しやすい環境でもあります。
その結果として、クリーンルーム内への粒子持ち込みリスクの増大、製品の外観不良、包装工程での異物付着などにつながる可能性があります。

こうした課題に対する一つの改善策として、周辺エリアに「業務用空気清浄機」を導入し、空気質のレベルを底上げする手法が注目されています。
本稿では、クリーンルーム周辺環境における空気清浄機の役割と、導入時の検討ポイントについて整理します。

クリーンルーム周辺環境で発生しやすい空気汚染要因

クリーンルーム本体では清浄度が管理されていても、その周囲では以下のような要因により空気汚染が進行する場合があります。

人の出入りによる粒子・外来微生物の持ち込み

作業者の動線が集中する前室・更衣室・前工程エリアでは、皮膚片、繊維くず、履物由来の砂塵などが多く発生します。
また、外気に接する通路・搬入口付近では、屋外からの花粉・粉塵・微生物が流入するリスクもあります。
これらの粒子が前室や準クリーンエリアで十分に低減されていないと、クリーンルーム出入りのたびに内部へ持ち込まれることになります。

梱包材・紙資材からの発塵

出荷や包装工程では、段ボールや紙箱、緩衝材など、発塵性の高い資材が使用されることが多くあります。
特に開梱・組み立て・切断などの作業では細かな紙粉や繊維くずが空気中に飛散しやすく、製品表面への付着や、
その後の工程への粒子持ち込みリスクを高める要因となります。

温湿度・換気条件によるカビ・微生物リスク

準クリーンや一般エリアでは、クリーンルームほど厳密な温湿度管理が行われていない場合も多く、
結露や局所的な高湿度環境が発生すると、カビや細菌の増殖リスクが高まります。
これらの微生物が空気中に放出されることで、製造エリアへの二次的な汚染経路となる可能性があります。

空気清浄機を周辺環境に導入する目的

クリーンルーム周辺への空気清浄機導入は、「クリーンルーム本体の代替」ではなく、
あくまで周辺環境の粒子・微生物負荷を低減し、全体のリスクを下げることが目的となります。
主な狙いは次の通りです。

前室・準クリーンエリアの浮遊粒子濃度の低減

クリーンルームへの入退室前後に通過するゾーンの清浄度を底上げすることで、衣服・カート・搬送容器などへの粒子付着量を減らし、
クリーンルーム内部への持ち込みリスクを抑制します。
空気清浄機を動線近傍に設置し、流入・流出する空気を集中的に処理することで、簡易的なバッファとして機能させることができます。

包装・梱包エリアでの外観不良リスク低減

製品の最終包装工程では、外観に異物が付着するとクレームや返品の原因となり得ます。
段ボール粉やフィルム切断片、糸くずなどの発生が避けられない環境において、
空気清浄機を用いて浮遊粒子を継続的に除去することで、異物付着の確率を低下させることが期待できます。

来客エリア・事務スペースの空気質改善

来訪者が利用する会議室や受付、クリーンルーム関連の打ち合わせを行う事務エリアでも、一定レベルの空気質が求められるケースが増えています。
空気清浄機を設置することで、ホコリや花粉、臭気の低減により、衛生的かつ快適な環境を維持しやすくなります。

空気清浄機の基本構造とクリーンルーム周辺での留意点

業務用空気清浄機は一般的に、プレフィルター・高性能フィルター・脱臭フィルターなどを組み合わせ、
内蔵ファンで空気を吸引・排出する構造になっています。クリーンルーム周辺で使用する際の主な留意点は以下の通りです。

フィルター性能と目的の整合

粒子低減を主目的とする場合は、微粒子を高効率で捕集できるフィルター仕様かどうかを確認します。
同時に、臭気・揮発成分の低減も重要なエリアでは、脱臭フィルターの有無や性能も検討対象になります。
周辺環境で要求される清浄度レベルに応じて、どの程度の捕集効率を持つ機種を採用するかを決定します。

風量・循環効率

採用機種の風量が、対象エリアの体積や実際の換気条件に対して十分かどうかを検証する必要があります。
死角となるエリアが多い場合や、設備・棚・仕切りによって気流が乱れやすい配置になっている場合は、
複数台の設置や設置位置の工夫によって、空気の循環経路を意識的に形成することが重要です。

設置位置と気流設計

空気清浄機は、設置位置によって効果が大きく変わります。
クリーンルーム出入口付近、梱包資材の開梱エリア、前室内の動線上など、粒子発生源や動線を踏まえた配置が求められます。
また、既存空調との吹き出し・吸い込みの関係を考慮し、クリーンルーム側への気流を乱さないようにすることも重要なポイントです。

導入・運用時に押さえておきたいポイント

クリーンルーム周辺環境に空気清浄機を導入する際は、機器選定だけでなく、運用・管理面も含めたルール作りが必要です。

定期的なフィルター管理・交換

フィルターが目詰まりを起こすと、捕集効率の低下や風量不足を招き、本来の性能が発揮できなくなります。
粉塵負荷が高いエリアでは、プレフィルターの清掃頻度や交換周期をあらかじめ設定し、記録として残しておくことが望まれます。
加えて、高性能フィルター・脱臭フィルターについても、運転時間や環境条件に応じた交換基準を明確にしておく必要があります。

運転モード・稼働時間の設定

営業時間中は常時運転を基本としつつ、立ち上げ時や粉塵発生の多い時間帯に風量を強めるなど、環境に応じた運転モードを検討します。
夜間や休日の運転についても、清浄度維持と電力コストのバランスを踏まえ、適切なスケジュールを設定します。

モニタリングとの組み合わせ

浮遊粒子計や差圧計、温湿度ロガーなどを用いて、空気清浄機導入前後の環境データを比較することで、
導入効果を定量的に評価できます。データを蓄積することで、フィルター交換タイミングの最適化や、
設置台数・位置の見直しなど、継続的な改善につなげることが可能です。

まとめ:クリーンルーム周辺の「空気環境レベル」を底上げする

クリーンルームの性能を最大限に活かすためには、室内だけでなく、その周囲の環境も含めたトータルな空気環境管理が重要になります。
前室や準クリーンエリア、包装・出荷エリア、来客・事務スペースなどに空気清浄機を適切に配置することで、
浮遊粒子や臭気、微生物リスクの低減が期待でき、結果としてクリーンルーム全体のリスクマネジメントにつながります。

大掛かりな空調更新を行わずに空気質改善を図る手段として、業務用空気清浄機の導入は現実的な選択肢のひとつです。
自社のクリーンルーム運用状況や動線、発塵要因を整理しながら、どのエリアにどのような仕様の機器を配置するかを検討することで、
より安定した環境づくりが可能になります。

すでにクリーンルームを運用している現場でも、「周辺環境の空気質」という視点を加えることで、改善の余地が見つかることがあります。
設備更新やレイアウト変更のタイミングだけでなく、日常の運用見直しの一環として、空気清浄機の活用を検討してみてはいかがでしょうか。

参考:業務用空気清浄機おすすめ比較3選-空快biz-