クリーンルームは微細なほこりや異物を徹底的に排除するために設計された特別な空間です。
半導体、医薬品、精密機器など、高度な品質が求められる分野では欠かせない環境ですが、その中で意外と重要な要素が「静電気」です。
静電気は身近な現象ですが、クリーンルームでは思わぬトラブルを引き起こす大きな原因となることがあります。
ここでは、静電気がクリーンルームにどのように影響するのか、そしてそれを防ぐためにどのような工夫がされているのかを解説します。
静電気がクリーンルームに与える影響
静電気がクリーンルームで問題になる理由は、大きく分けて「粒子の付着」と「製品の破損」の2つです。
まず、粒子の付着についてです。
静電気は小さなほこりや繊維片を引き寄せる性質があります。
クリーンルームでは、空気清浄機能やフィルターによって粒子を極限まで減らしていますが、静電気が発生すると人や機器に粒子が付着しやすくなり、結果的に清浄度を下げてしまいます。
特に半導体や光学製品など、わずかな異物でも不良につながる分野では深刻な問題です。
次に、製品の破損です。
電子部品や回路に静電気が放電すると、目には見えないほどの小さなダメージが発生することがあります。
これを「静電気破壊(ESD: Electrostatic Discharge)」と呼びます。
一見問題がなくても、内部的にダメージが蓄積して寿命が縮んでしまうこともあり、製品の信頼性を大きく損ないます。
つまり、静電気は品質事故やコストの増加に直結するリスクを持っているのです。
さらに、静電気は作業者の安全面にも影響を及ぼすことがあります。
大規模な放電はめったにありませんが、小さなショックでも作業精度を乱したり、繊細な作業中に事故を招く可能性があります。
このように、静電気は「クリーンルームを清浄に保ち、製品を守る」という目的に対して大きな妨げとなる存在なのです。
クリーンルームでの静電気対策
では、クリーンルームではどのようにして静電気の発生や影響を抑えているのでしょうか。
代表的な対策をいくつか紹介します。
1. 専用の作業服や靴の使用
クリーンルームで着用する作業服やシューズは、帯電防止機能を持つ素材で作られています。
これによって、作業者の動作による摩擦や歩行による静電気の発生を抑えることができます。
2. 湿度の管理
空気が乾燥すると静電気が発生しやすくなります。
そのため、クリーンルームでは湿度を一定範囲に保ち、過度な乾燥を避けるようにしています。
湿度管理は静電気だけでなく、微生物の繁殖防止にもつながるため一石二鳥です。
3. 接地(アース)の徹底
機器や作業台は電気を地面に逃がすための接地が施されています。
これによって余分な電荷がたまらず、放電による事故を防ぐことができます。
4. イオナイザーの設置
イオナイザーは空気中にプラス・マイナスのイオンを放出し、静電気を中和する装置です。
クリーンルームでは作業エリアや製品の上部に配置され、局所的に静電気を取り除く役割を果たします。
5. 専用のツールや文房具の使用
日常で使うプラスチック製品や一般的な文房具は静電気を帯びやすいため、クリーンルーム内では専用の帯電防止仕様のものを使います。
例えば、帯電防止プラスチックのトレイや、導電性のあるペンなどです。
これらの対策を組み合わせることで、静電気のリスクを最小限に抑えているのです。